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国宝・不動院プロジェクションマッピング—学生クリエイターたちが描いた個性と、未来への転機

2025年12月15日
2025.12.15

 2025年11月、国宝・不動院金堂。夜の闇に浮かび上がったのは、単に美しいだけの映像や音楽ではありませんでした。 あるパートではポップでキャッチーなノリを、あるパートでは不穏なビートが刻まれ、あるパートでは静謐なアンビエントが広がる——。それは、比治山大学短期大学部美術科(映像)とエリザベト音楽大学(音楽)の学生たちが、ペアになって制作し、それぞれの世界観やルーツをぶつけ合い、大きくて荘厳なキャンバスの上で共鳴させた瞬間でした。

 なぜ彼らは表現の道を選んだのか。どんなカルチャーに影響を受け、それをどう作品に昇華させたのか。そして、映像と音楽の「異種格闘技」とも言えるコラボレーションを経て、どんな未来を見据えているのか。 史上初となる不動院プロジェクションマッピングを成功させた若きクリエイターたちに、制作の裏側とそれぞれの転機について語ってもらいました。
※インタビュー進行:宮﨑しずか、写真:斉藤克幸(敬称略)

歴史をただなぞるわけじゃない、個性を国宝にぶつける

 ——今回のプロジェクションマッピングは、作品ごとに作風がガラリと変わるのが印象的でした。制作にあたって、まず何を大切にしましたか?

 宮﨑しずか(比治山大学短期大学部美術科 映像・アニメーションコース教員):今回、多くの来場者の方々にお越しいただきました。その群れの中で「どの作品が好きか」を言い合っている声をよく耳にしました。映像も音楽も、それだけ個性豊かだったということですよね。日頃から人と同じものを作らないようにとは伝えていますが、学生たちそれぞれの持つツールや個性が、予想以上に突出していた結果だと思います。

 川上統(エリザベト音楽大学 音楽文化学科教員): 実は4月のプロジェクトの開始当初から、「この学生たちが一緒に作ったら面白くならないわけがない」という強い勝算……というより、確信がありました。お互いの顔合わせの時に、学生たちの化学反応みたいなものを強く感じていました。仕込みの過程は我々教員も含めて大変でしたが、今はとにかく、みんなの力でドッカンと盛り上げられたことが嬉しいですね。

 松岡咲綾(比治山大学短期大学部 美術科 映像・アニメーションコース2年): 私は、不動院金堂を見学した際に出会った「迦陵頻伽(かりょうびんが)」という想像上の鳥をモチーフにしました。その鳥が他の鳥を追いかけたり、不動院をぐるぐると回ったりする様子を、手描きのアニメーションで表現しています。以前からプロジェクションマッピングには挑戦してみたいと思っていたので、良い経験になりました。

 森明蓮(比治山大学短期大学部 美術科 映像・アニメーションコース2年): 僕は、3DCGソフト Blenderのグリースペンシルという機能を使い、抽象的なアニメーションを制作しました。「手描きっぽい質感の3DCG」を作りたくてひたすら描き続けたら、気がつくと3ヶ月経っていた……というくらい没頭しましたね。制作はとても楽しかったです。

「深夜のLINE」と「段ボール」——制作の裏側

 ——映像と音楽、異なる分野の学生同士でのコラボレーションはいかがでしたか?

 加悦大夢(エリザベト音楽大学 音楽文化専修創作プログラム2年): 僕は森明さんの映像に合わせて音楽を担当しました。当初は「シティポップっぽい音楽」というオーダーで進めていたんですが、最終的に届いた映像がすごく抽象的で……。「これ、今の音楽のままじゃダメなんじゃないか?」と悩み、夜中にも関わらず川上先生にLINEしてしまいました(笑)。

 ——そこからどう立て直したんですか?

 加悦:そこからEテレの『デザインあ』のような、ミニマルな音楽へ方向転換しました。テンポのパターンを5〜6曲作って試行錯誤したのが面白かったです。最終的には、当初森明さんが描いていたイメージに近い形に着地できたと思います。

 菊﨑えりな(エリザベト音楽大学 卒業生): 私は「オーガニック系」の作品と、「コールアンドレスポンス」を取り入れた作品の2つを担当しました。エリザベト音大を卒業して現在は映像の専門学校に通っているため、今回はエンディング映像とクレジット音楽も制作しています。 オーガニック系の企画を見た時は、普段自分が作っている音楽の方向性と近かったので、「お互いのイメージが共有できている、これはいける」と直感しました。当日は、子供達が想像以上に盛り上がって大きい声で作品のキャラクターに呼びかけてくれて嬉しかったです。

 宮﨑:建築構造を咀嚼して演出していた松岡さんの作品は、何度も修正を加えていて、不動院にいって、その色に段ボールで塗ってから、プロジェクターで光を当てて、色味を確認したりしてましたね。

 松岡:8月のテスト投影で、色が思っていたような感じに出ていなかったので・・・。笑

 宮﨑:他の学生たちも3Dプリンターで作成した不動院のモデルを使って、学内でもテスト投影をしては修正をしてました。

 川上:作曲の方も「先生から指導する」というよりは、各々が自分で作ってくるスタイルでした。ただ、自分のタイミングだけじゃなくて相手のタイミングを知るとか、映像がなかなか出来上がってこないペアには「短いビートだけでも送ってみよう」と発破をかけたり。そういったコミュニケーションの部分は意識しましたね。

私はなぜ、この道を選んだのか——ルーツ

 ——ここからは少しパーソナルな質問を。
 みなさんの光る個性がどのように形作られてきたのか、この世界に飛び込むきっかけになった「ルーツ」を教えてください。

 川上:私は小学校の時、眠れないことがあってワーグナーを聴くようになりました。そこから、ラヴェル、プロコフィエフと続いて、チェロが弾けたり、音楽心理学に興味があったりしたことで、音楽大学に進むことになり、今は現代音楽とか即興、作曲の道にいます。船橋のアンデルセン公演では童話の動画に対する作曲とかも作ったりしてましたが、今回、映像に対する音楽に真っ向から立ち向かったのは新鮮な経験で、音楽の合い方というか、映像と音楽の合わせ方には正解が多義的で、すごく勉強になりました。

 加悦:僕はNHK児童合唱団に小学3年生の頃から入っていて、歌を歌っていたら自分も作りたくなって、エリザベト音大に入りました。 ゲームもすごい好きで、生き残るために奮闘する荒廃した未来地球が舞台の『アークレイダーズ』といった世界観が好きでした。これまでは歌ものや、知声(VoiSona)を使ってボカロ曲を作っていたんですが、このプロジェクトがきっかけで、EDMなどを主専攻にすることに決めました。そのくらい大きな影響を与えてくれる経験でした。

 菊﨑:私は高校の授業で作曲の課題があって発表した時に周りからすごい反響をいただいて、そこからYouTubeでサウンドクリエイターという職業があることを知りました。親からの反対を押し切ってこの道に進みました。エリザベト音大では今作っているオーガニック系の作曲に通じるアンビエント系の音楽に影響を受けましたし、多くの引き出しを作ってもらいました。 細田守監督の『サマーウォーズ』のようなパラレルワールドを描いた作品が好きで、卒業の時もそういうコンセプトの作品を作りました。蜷川実花さんを知ってからは「映像も音楽も全部自分でやりたい」と思うようになり、今の進路(映像の専門学校)を選びました。

 森明:僕はアニメとか映画が昔から大好きだったんです。4コママンガを高校の時に描いたりしてましたが、でもまずは大学生になりたいって思って比治山大学短期大学部に入学しました。笑 みんなに対して、自分の好きなものを好きって言えるところがすごいなって思ってます。初めはマンガを描いていこうと思ったんですけど、アニメーションもいいなと思って今は映像・アニメーションコースに進みました。藤本タツキの『ルックバック』や『さよなら絵梨』という作品が大好きで、就職は決まってますが、マンガも描いていこうと思っています。

 松岡:母や姉や絵がうまかったから、自分も興味を持ちました。その後、Twitter(現X)でイラストを見漁るようになって。タブレットを中学1年生で買ってもらってからは絵を描いてました。高校は商業高校だったんですけどマーケティングを学ぶ授業で広告を作ったりしたことからデザインに興味を持ちました。大学では映像に興味を持って今のコースを選び、同じ趣味を持つ友達ができて嬉しいです。

 宮﨑:私も幼少期から絵を描いたりしてたことや、高校時代に聴き漁ったインディーズの音楽などが今の制作活動に活きているなと思ってます。

広島から、新しいアトラクションを

 ——最後に、皆さんの今後の展望を教えてください。

 松岡:今回、音楽の方と合作ということで緊張はしたんですけど、「全部一人でやらなくていいんだ」という安心感も感じました。エリザベト音大のペアの方とは、やりたいことをちゃんと伝えることを大事にして、制作途中の映像を見せて音のタイミングをお願いして、いただいた音楽の方に映像を合わせたり、お互いのやり取りで完成に至りました。将来の場所は決まってないけれど、就職してもものづくりを続けていきたいです。

 森明:マンガを描き続けていく予定ではあって、こないだの夏に大学の授業である『マンガ持ち込み演習』に参加して出版社を回ったりしてました。グサっとくるアドバイスもあったけどすごく勉強になったし、名刺を1件だけもらえたのも嬉しかったです。

 菊﨑:私は広島から出る予定はなくて、ここでクリエイターとしてやっていきたいです。だからこそ、音楽だけじゃなくって、映像も作れるようになろうとしているし、どっちの仕事もしていきたい。 エリザベト音大では、平和プロジェクトとして音楽と光のイベントをやったり、ピースウイング広島で映像を流してもらったこともありましたが、今思うとああいうのを今回のメンバーとか他の人たちも募って「みんなで」やっていけたらいいなと思います。

 加悦:僕もまだ決まってないですけど、広島での活動はしていきたいです。他にも文化財を使ったりしてる映像イベントを見たことはあったけど、屋台なしでここまでできたのは本当にすごいことだなって思っているし、みんなが国宝を知るきっかけになったことも嬉しい。 映像×音楽ってとても広がりがあるなと思っていて、ゲームを作るっていうのもできるかもしれないし、そういう「体験型」のイベントができたら面白いと思います。

 宮﨑: みなさんのような若いクリエイターたちが集結してメディアアートを披露する舞台になり、その力で地域活性化をしてほしいという協賛者さまたちもいらっしゃいました。 今回注目を浴びて取材をしていただいたことで、みんな自信がついたんじゃないですか?

 松岡:はい。本格的なクリエイターになった気分だし、「ここまですごいことできるんだ」って思いました。

 菊﨑:多くの人に見てもらったりすることが怖くなくなったよね。

 (一同うなずく)

 森明:幼稚園や高校とのコラボもあり、多世代の方々に喜んでもらえるイベントになりました。

 川上:新世代のアトラクションをこれからも作っていきたいですね。

 宮﨑:メンバーは他にもたくさんいるので、これからの彼ら彼女らの活躍を楽しみにしてほしいです。今日はありがとうございました。


 不動院プロジェクションマッピングー光でつなぐ歴史とみらいーpresented by 比治山大学・比治山大学短期大学部 エリザベト音楽大学
 世界に通用するメディアアートを作りたい!
 その思いから比治山大学短期大学部美術科映像・アニメーションコース16人が発案したプロジェクト。
 エリザベト音楽大学と共同で不動院でのプロジェクションマッピングを開催しました。映像と音楽を通じて、地元広島の魅力や強みを最新のテクノロジーと自分たちの感性で表現し、最先端のメディアアートを地方からでも発信できることを実証する取り組みです。

【活動記録と当日の映像】

会場真言宗別格本山安国寺 不動院
(広島市東区牛田新町3丁目4-9)
開催期間2025年11月1日(土)・2日(日)
開催時間18:00~20:00(15分のループ上映)を予定
観覧料無料、立ち見でのご観覧です。