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演劇は、もっと近くにある

2025年11月19日
2025.11.19

舞台芸術制作室無色透明

舞台芸術制作室無色透明は、2010年の設立以来、「もっと多くの人に『暮らし』の中で演劇に触れてもらう機会を作りたい。その時間がその人たちの人生の中でよい時間であってほしい」という活動理念のもと、様々な角度からアートに携わる人々を繋いできました。
地元劇団の制作統括、公立文化施設との事業提携、県外・国外の小劇場作品広島公演のプロデュース・オーガナイズ、障がいを持った方たちとの演劇づくり事業と、様々な活動に取り組んでおられます。今回はその活動についてお話を伺いました。

アートと社会をつなぐ

―― 2010年に「舞台芸術制作室無色透明」を設立し、様々な人々と共に活動を続けてこられました。この「無色透明」という名前には、どんな意味や思いが込められているのでしょうか?

 演劇の特徴である「時間の共有」や「感動」は、目に見えず、形として残すこともできません。けれども、確かにそこに“在る力”を信じたい——そんな想いからこの名前をつけました。

 もう一つは、「水」のイメージです。

 水は、私たちの日常に欠かせないものでありながら、特別に意識されることはあまりありません。しかし、命をつなぐために必要不可欠な存在です。濁りのない「無色透明」という性質には、可能性や万能性といった、とても大きな力が秘められているように感じます。 いつか、演劇という形で、そんな“透明な力”を届けられるような仕事ができたら—— そんな願いを込めて、この名前を選びました。

―― つなぐ活動の中で、特に印象に残っている出来事や出会いはありますか?

 ターニングポイントの一つとして印象深いのは、2017年にスタートした「障がいのある人たちも一緒に創る演劇活動」の取り組みです。

 2014年、無色透明は宮崎の劇団「みやざき◎まあるい劇場」の広島公演をオーガナイズしました。 この劇団の活動は、2001年に平田オリザさんが宮崎の障がい福祉サービス事業所「アートステーションどんこや」で行ったワークショップをきっかけに始まりました。その後、宮崎の劇団こふく劇場の永山智行さんがその活動を引き継がれ、2006年に「みやざき◎まあるい劇場」として作品創作をスタートされました。

 そして2014年の広島公演の折、偶然その舞台を観劇くださったのが、広島において長年にわたり、障がいのある方達のアート活動を支援してこられた「認定NPO法人ひゅーるぽん」の川口隆司さんでした。

 そのご縁から、「広島でも障がいのある人たちと一緒に活動できる演劇をつくってほしい」というご依頼をいただき、無色透明のスタッフ2名がひゅーるぽんさんに1年間在籍し、現場で学びながら手探りで活動をスタートしました。

  遠く宮崎から始まったささやかな流れは、やがて広島の我々へと繋がり、そして現在、無色透明が行うさまざまな事業においても、「演劇を社会に役立てる」という私たちのミッションを支える、大切な礎となったのではないかと感じています。

無色透明の“つなぐ仕事”

―― 近年では「広島アクターズラボ」を開講し、俳優やスタッフの育成も始められました。育成の取り組みへの思い、また今後の活動にあたっての展望をお聞かせください。

 「演劇を本気でやりたかったら、広島ではなく東京にいかなければできない」―――― そんな“都市伝説”を更新したいと思ったのがきっかけです。

 確かに、都市圏に比べると広島には機会も現場も圧倒的に少ない。わたし自身、役者を志していた頃、「本当に自分がやりたい演劇がここにあるのか」と苦悩した時がありました。

 そんなとき、ある演出家の「表現は自分の中にしかない」という言葉に強く影響を受けました。

 もし、今この場所で役者として“自分の中にある表現”を舞台に打ち出し、観客を惹きつけることが出来ていないのなら、それは東京でも大阪でも同じく不可能なのです。

 逆に言えば、それを身に付けることができたなら、どこにいても演劇の仕事ができるはずです。

 どこにいても、自分の表現を磨くことはできる。けれど、それを独りで追求するのはとても難しい。

 だからこそ、意欲ある人たちが集まり、共に研鑽できる場=コミュニティを作りたいと考え、「広島アクターズラボ」を立ち上げました。

 ただし、誤解してほしくないのは、「ここに来れば演技が上手くなる」「俳優(タレント)になれる」といった趣旨の場ではないということです。

 演者であれスタッフであれ、芸や技(わざ)の道には“上手くなる魔法”も“成功する魔法”も存在しません。

 自己実現をめざして地道に努力し、そのために時間やお金を惜しまず投資できるかどうか—— そこにしか道は拓けないと思っています。

 だからこそ、がんばる若手たちが広島という土地にいながら少しでもチャンスを掴めるきっかけを生み出せるよう、私自身も努力を重ねていきたいと思っています。

―― どうもありがとうございました。

舞台芸術制作室無色透明が気になったあなたへ!

ただいま参加募集中!無色透明主催講座

◆2017年から続けている障がいのある人もない人も、演劇を通じて一緒に遊びながら学ぶコミュニケーションワークショップ「演劇クラブ」を来年1月に開催します。それに伴い現在「ジュニアファシリテーター」として、高校生~大学生のファシリテーター研修参加者を募集しています。 また演劇クラブのメンバーが中心になって創作する簡単な表現発表会を12月に行います。

◆また昨年度から、福山市さんからのご依頼で「ふくやま人権大学」の表現コースを担当させていただいています。 今年は【「ちがい」を重ねてひとつになる~演劇を通じて出会ってみよう~コース】と題して、多様な人たちとの出会い、表現の場を作ります。こちらも参加者募集中です(定員20名)

◆今年度の広島アクターズラボについて、定期ラボは締め切っていますが、月1回の「単発ラボ」は都度お申し込みいただけます。

・演技のトレーニングを一人で何をしたらいいか分からない方

・体力筋力のトレーニングではなく身体の使い方をトレーニングしたい方

・人前に立つお仕事をされている方

・これからお芝居を始めてみたい方

・本番のない期間にもトレーニングを継続したい方

におすすめの3時間の講座です

舞台芸術制作室無色透明の今後の活動紹介

日付イベント名HP
2025/12/14演劇×福祉
多様性のある場づくり体験
(三篠公民館)
https://4ma4ma.jimdofree.com/
2025/12/21ピロシマ演劇クラブ
演劇発表会(仮)
https://engekihiroshima.wixsite.com/piroshima
2026/1/17
2026/1/24、25
ふくやま人権大学
【「ちがい」を重ねてひとつになる
~演劇と通じて出会ってみよう~】
https://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/koho-detail02/koho-202511/377300.html
2025/11/22、12/13
2026/2/28、3/28
広島アクターズラボ[単発ラボ]
定員10名
https://www.engeki-hiroshima.com/actorslab
※プロフィール

2010年にパフォーミングアートの企画制作機関として旗揚げ。広島を拠点に、良質な舞台芸術を通じて人とアートをつなぐ活動を行っている。「もっと多くの人に“暮らし”の中で演劇に触れてもらう機会をつくりたい。その時間が人生の中でよい時間であってほしい」という理念のもと、地元劇団の制作統括、国内外の公演プロデュース、ワークショップ企画、子育て支援事業の一環としての人形劇団の運営、障がいのある人との演劇づくりなど、“社会に役立つ演劇” の確立を目指して多様な活動を展開している。