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プレイバックシアター~ストーリーの共有が生み出す相互理解

2025年07月18日
2025.07.18

劇団しましま

県立広島大学三原キャンパスの教員や保健・福祉・教育分野の専門職の方々でつくる劇団「しましま」。保健・福祉・教育分野や地域社会での効用に着目し、10年以上にわたって「プレイバックシアター」と呼ばれる即興劇に取り組んでこられました。
近年、芸術の持つ、多様な人々を繋げる力が注目されています。今回、劇団しましまの皆さんに「プレイバックシアター」や活動の様子について伺いました。

プレイバックシアターと劇団しましまの活動

―― 「プレイバックシアター」について教えてください。

 観客から聞いた話をその場で演じる即興劇です。1970年代前半にアメリカで、ジョナサン・フォックスとジョー・サラスというご夫婦が中心になって始めました。昔話、映画、小説、戯曲が人々の心を動かし、生きる力を与えるように、私たちの日常の経験の中から語られたストーリーにも秘められた力があることが発見されました。

 2025年はセンター・フォー・プレイバックシアター創設50周年です。世界の70以上の国や地域でプレイバックシアターに魅せられた人たちが活動しています。日本では、プレイバックシアターセンターの姉妹校として1998年にスクール・オブ・プレイバックシアター日本校が開校しました。

 トレーニングを受けた劇団員が、観客の皆さんのストーリーを演じる公演と、参加者同士が演じる練習をしてから、お互いのストーリーを演じ合うワークショップがあります。

―― 劇団しましまでは具体的にどんな活動をしているのでしょうか。

 劇団しましまは、2014年に県立広島大学の教員を中心にプレイバックシアターをするために設立されました。現在のメンバーは、作業療法士、看護師、心理師、社会教育士です。プレイバックシアターを活用してインクルーシブなコミュニティの創造に貢献することを目的として活動しています。

 ワークショップでは、ゲームや演じる練習となるエクササイズを行います。3時間以上のワークショップでは、参加者が語ったストーリーを参加者が演じることができます。作業療法や看護など医療福祉系の学生の授業、病院や福祉施設のスタッフの研修、医療専門職の研修で、プレイバックシアターのワークショップを行いました。

 公演は、司会を務めるコンダクターが、観客から話をしてくれる人(テラー)を募集し、インタビューします。テラーの話が終わったら、ミュージシャンが楽器を演奏し、アクターが即興劇を演じます。テラー以外は劇団員です。地域イベントやセミナー、障害者団体の交流会、学術集会などで公演を行いました。

地域でプレイバックシアターの公演を行うこと

―― 福祉施設や学校などで公演を開いてこられるなかで、気付かれたことや印象に残っている場面はありますか?

 一人目のテラーのストーリーを演じた後、二人目、三人目となったテラーが「話すつもりではなかったのに、ストーリーがわきでてきた」と言うことがしばしばあります。ある人が語ったストーリーが他の人の記憶に埋もれていたストーリーを呼び起こすのだと思います。

私たちは、それぞれ別の場所で別の人生を生きていますが、誰かがいて、何かがあって、何かを感じて、といったストーリーがどこかで繋がっているのだと思います。だから、知らない人にも共感することができるし、想像することができるのだと思います。

 公演が始まった時の緊張感は、徐々にほぐれていきます。「人前で話すのは恥ずかしい」「自分の内面を晒したくない」という人が「いつの間にか手をあげて話していた」という変化がうれしいです。

 規則に従ったり、周囲の空気を読んだり、人目を気にする生活が多い日常とは違って、素直な自分に出会い、他の人たちのやさしさを感じる時間を届けることができたかなと思うことがあります。

―― 近年では、地域の文化ホールでも公演され、昨年の記念公演では「みんなの子育て」を、今年7月の公演では「多文化共生」をテーマにされています。こうしたテーマを選ばれた思い、今後取り上げてみたいテーマ、また今後の活動にあたっての展望などをお聞かせください。

 「みんなの子育て」も「多文化共生」も、劇団しましまの活動の目的である「インクルーシブなコミュニティの創造」に直結しています。みんな子どもだったし、みんな自分の文化を持っています。でも経験はみんな違います。プレイバックシアターで語られるパーソナルストーリーは、具体的で、個別的ですが、他の人のストーリーとどこかがつながります。「みんなの子育て」の公演では、夏休みのストーリー、きょうだいのストーリー、心配したり、感心したり、笑ったり、泣いたり、がありました。「心の体操した気分です」という感想がありました。

 今後のテーマは、メンバーや公演を依頼してくれる人たちと相談して決めていきたいです。ワークショップは、プレイバックシアターに興味がありそうな人たちに、できるだけたくさん経験してほしいと思っています。

ホームページから、公演やワークショップを依頼していただけるとうれしいです。

―― どうもありがとうございました。

プレイバックシアターをもっと知りたい方へ

プレイバックシアターが分かる!劇団しましまのおすすめ図書・サイト

【おすすめ図書】

宗像佳代・著「プレイバックシアター入門 台本のない即興劇」(明石書店,2006):他言語にも翻訳されている入門書です。

【おすすめサイト】

劇団しましまのサイト:さまざまな情報を掲載しています。

センター・フォー・プレイバックシアター:1993年、プレイバックシアターのリーダー養成コースとして、ニューヨークで発足しました。

スクール・オブ・プレイバックシアター日本校:プレイバックシアターセンターの姉妹校です。

プレイバックシアター創設者へのインタビュー:2013年にプレイバックシアター創設者のジョナサン・フォックスにインタビューしました。

オンラインによる「リスニングアワー」:コロナ禍の時に、オンラインで、1時間くらいで、パーソナルストーリーを分かち合う「リスニングアワー」が始まりました。プレイバックシアターよりも手軽に経験できます。劇団しましまのメンバーの多くがリスニングアワーを開催できます。

劇団しましまの今後の活動紹介

日付イベント名HP
月に2回程度しましまオープン(オンラインで
プレイバックシアター体験)
https://4ma4ma.jimdofree.com/
2025年9月21日(日)・ワークショップ(公開練習参加)
(場所:県立広島大学三原キャンパス)
同上
2025年10月19日(日)ワークショップ(公開練習参加)
(場所:東広島芸術文化ホールくらら)
同上
2026年2月ワークショップ(場所:東広島)
(調整中)
同上
※プロフィール

プレイバックシアターの劇団。メンバーは県立広島大学三原キャンパスの教員など、健康・福祉・教育分野の専門家たち。同大学保健福祉学部の吉川ひろみ教授(作業療法学)の呼びかけで2014年に発足。年に数回、福祉施設や学校で公演。2024年三原市芸術文化センターポポロ、2025年東広島芸術文化ホールくららにて公演を行うなど、活動の幅を広げている。