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器の向こうに、誰かの暮らしがある

2025年12月01日
2025.12.01

陶芸家 中曽 智子さん

瀬戸内・尾道の穏やかな風景の中で、伝統と現代が響き合う器を生み出す陶芸作家・中曽智子さん。瀬戸内の海や空の色彩、土地の空気を取り込みながら、心を動かされた瞬間をそっとかたちに留めるように。中曽さんの作品には、作り手の想いや感性、そして物語が静かに織り込まれています。 暮らしの中にやさしく寄り添い、日常を少し豊かにしてくれるような器やオブジェを、日々精力的に制作されている中曽さん。陶芸への想い、尾道という土地での暮らしと創作、そして地域とのつながりについて、お話をうかがいました。

陶芸と歩む

――  陶芸という表現方法を選ばれたきっかけや、その道を歩み続けてこられた原動力について、お聞かせください。

大学の素材実習で初めて陶芸に触れたとき、その素材の面白さにすっかり魅了されたのが陶芸を始めたきっかけです。 特に電動ろくろとの出会いは衝撃で、夢に見るほどのめり込みました。 やればやるほど思い通りにいかないことも多くて悔しいのですが、その壁を一つ越えられるとまた楽しくて。 七転八倒を繰り返しながら、気づけば今もこの道を続けています。

―― タナゴコロでは「広島の器」を提案する企画に取り組まれていますが、この活動を通して、ご自身の中に生まれた気づきや、伝えたいと感じたことがあれば教えてください。(タナゴコロ=広島にゆかりのある陶芸家・漆芸家の集まり)

タナゴコロは、研究所の先輩が作家と料理人の方とで立ち上げられたグループなのですが、陶芸の一大産地から尾道に戻った当時、横のつながりがほとんどなかった私にとって、作家同士が情報共有できる勉強の場として、また活動の場としてもとても心強くありがたい居場所でした。 タナゴコロでの活動を行うことで、それまではあまり接点のなかった料理人の方からうつわや料理について学ぶ機会をいただき、食に携わる方たちから生の意見を間近で聞けることが増えました。 さらに、イベント(飲食店さんにご協力いただき、作家のうつわでお食事を楽しんでいただく企画)では、お客様から使用感や感想をその場で伺うことができ、とても貴重な経験になっています。 そうしたやり取りから制作のアイデアを得たり、改善の工夫を見つけたりと、ひとりで工房に籠もって制作しているだけでは得られない刺激をたくさん受けています。 同じ料理でも、うつわひとつで見え方や感じ方が大きく変わる―この活動ではその面白さを多くの方に伝えていけたらと思っています。

―― 作品を手に取る人に、どのように楽しんでもらえたらうれしいと感じていますか?

「物語を感じる作品づくり」を目指して制作しているため、作品にはつくる側の思いや背景が込められていますが、見て使って楽しんでいただくなかで、その方自身の経験や思い出と重なり合い、新たな物語をどんどん上書きしていっていただけるとうれしいです。

尾道に根差して

―― 2015年に尾道市内の古民家にアトリエを構えられたとお聞きしました。今の暮らしや制作の環境について、どのように感じていらっしゃいますか?

尾道は昔から文筆家や美術家が集い、文化を醸してきた土地柄もあり、学生時代からこの町には独特の空気や心地よさを感じていて、いつかここに居を構えて活動していきたいと自然に思うようになりました。 ご縁があって今の場所にアトリエを構えることができ、暮らしと制作が地続きになった今、その思いが実現したことをとても嬉しく感じています。 町の景色や人の営みが日々の制作の背景となり、自分の中にも染み込んでくるようです。 職住一体のため、工房までは歩いて5歩。窯のチェックが深夜になってもすぐ対応できるし、思い立てばすぐ制作に取りかかれる。逆に即休憩もできてしまうので、メリハリをつけるのが難しいのは悩みどころです。 中学生の頃から「いつか町家に住みたい」と思っていた夢も叶いました。建築当時の雰囲気を残す細部まで丁寧に仕上げられた建具や飴色の柱、たまりません。

――中曽さんにとって、アトリエが地域の中でどのような場所になれたらうれしいと思われますか?
また、尾道という土地でのこれからの暮らしや活動について、どのように育んでいきたいと感じておられますか?

子どもの頃、工芸や芸術を仕事にしている人も身近にいなかったので、そのような仕事はテレビ越しの遠い世界のことで自分がなれるものではないと感じていました。 けれども興味を持って調べていくうちに、その仕事を生業として日々向き合っている先人たちが数多くいること、そして自分自身も関わることができる世界なのだと知り、見えていなかった選択肢が一気に広がった気がします。 そういった体験から、アトリエがそのような分野に触れられる身近なサンプルとして、誰かの参考になれる場所であれたらうれしく思います。 地域への貢献という意味ではまだまだですが、この地で草の根的にでも工芸や美術のファンをコツコツと増やしていけたらと願っています。

―― 最後にお聞きします。
あなたにとってアートとは?

言葉や形にしきれない気持ちや記憶を留めるための手段です。アートは、私にとって“記憶のうつわ”のようなものだと感じています。 まだまだ夢見た作家像には届いていませんが、これからも努力を重ねていきたいと思います。

作品世界をもっと楽しむために

陶芸を始めてみたい! 中曽智子さんおすすめセレクション

  * おすすめのサイト *

   ◎ 美術展ナビ

   ◎ artscape

   ◎ ART AGENDA

  近場の美術館やギャラリーの展覧会にどんどん足を運んで実物を見て触れてもらいたいなと思います。

  読み物としても面白いです。

 

  自分が陶芸を始めたい、と思ったときに頼ったツールがほぼ本だったので当時参考にしたものを。

  古書店などでしか手に入らないためご参考まで。

 

  ◎ 季刊つくる陶磁朗(双葉社)「陶芸家になりたい!」

  廃刊になってしまいましたが陶磁朗にはこの巻以外も大変参考にさせてもらいました。

 

  ◎ 「陶芸入門コツのコツ」(NHK出版)望月集

  陶芸初心者の頃にこの本に出てくる作り方を真似しまくりました。

 

  現在手に入る本だと野田耕一先生著のものがわかりやすくておすすめです。

中曽智子さん 今後の活動紹介

日付イベント名HP
2025年11月21日~
2026年1月12日
2人展
(Ryokan尾道西山)
https://www.instagram.com/onomichi.nishiyama/
2026年3月11日~
2026年3月16日
中曽智子陶展
(天満屋福山店・美術ギャラリー)
https://www.tenmaya.co.jp/fukuyama/
2026年5月16日~
2026年5月31日
中曽智子陶展
(ろにせら)
https://www.instagram.com/lonicera/
2026年6月6日~
2026年6月21日
 2人展
(ギャラリー平)
https://www.instagram.com/taira_onomichi/
プロフィール

尾道市在住の陶芸作家。尾道市立大学デザインコース卒業、多治見市陶磁器意匠研究所修了。同大学非常勤講師を務める。尾道空き家再生プロジェクトの古民家物件を自宅兼工房としてリノベーションし制作の場としている。 「心動かされたものを手元に留めておきたい」という思いからものづくりを始め、瀬戸内の海や空の色彩や形に魅了され、それらを作品に反映。とびかんな技法を独自にアレンジし、伝統的な装飾技法でありながらも現在の生活に取り入れやすい作品を制作している。 また、広島の食・酒・うつわを発信するグループ「タナゴコロ」のメンバーとして飲食店やホテルとの共同プロジェクトを企画。 作品の制作発表のほか、陶芸のワークショップや教室を開催し、もの作りの楽しさを伝えるきっかけを提供することで美術や工芸ファンを増やすべくコツコツ活動中。

主な活動歴
【受賞歴】2013 神戸ビエンナーレ「現代陶芸」入選、2024 第5回広島文化新人賞受賞

【個展】2011~2025 AREA gallery、ギャラリーくわみつ、ろにせら、瓢箪堂など(広島・岡山・奈良)

【グループ展】2005~2025 広島・岡山の大学選抜展、HiBi展、鞆の浦de ART、「うつわ屋タナゴコロ」企画展など多数

【共同・地域活動】広島県内飲食店への器提供・共同プロジェクト参加

【その他活動】映画「雪女」作品協力、尾道空き家再生プロジェクト参加