特別寄稿 vol.3 野田正明さん 表現をつなぐ~創作活動半世紀の歩み~
特別寄稿 現代美術家 野田正明さん
福山市新市町出身で、米ニューヨークを拠点に活躍されている、現代美術家・野田正明さんは、世界各地で個展を開催、彫刻モニュメント設置と同時にアートによる文化交流を続けています。約30年前からは、学校での絵画指導や交流館での講座・ワークショップ等を通じて次世代育成にも力を注いでいます。来年、創作活動55年という大きな節目を迎える野田正明さんに、変わらず精力的に作品づくりに向き合う思いを寄稿していただきました。
アートと歩んだ半世紀
来年、創作活動55年という節目の年を迎えます。1972年に大阪芸術大学を卒業し、1977年に渡米して以来、国内外のさまざまな場所で制作、発表を続けてきました。異なる土地や文化に身を置きながら、「国際舞台でのアートの役割、自分なりの表現とは何か」を問い続けてきた時間だったように思います。
私の制作は、絵画という枠にとどまらず、空間そのものと向き合うインスタレーションや、街に息づくパブリックアートへと広がっていきました。広島市内二か所、福山市内では十五か所に公共モニュメントを設置し、ギリシャでは「小泉八雲プロジェクト」を含め四つの遺跡にモニュメントを恒久設置しています。
また、アメリカ、ギリシャ、フランス、ドイツ、中国、台湾、韓国など世界各地で展示の機会を重ねる中で、その土地の文化や歴史、そこに生きる人々の気配に触れながら制作を続けてきました。そうした一つひとつの出会いが、私の内側に積み重なり、表現として形を成してきたのだと思います。
これらの作品が、鑑賞者それぞれの心に何かを残すものであれば、作り手としてこれ以上の喜びはありません。



ギリシャとの交流
アメリカをベースに創作を続ける中で、私にとって大きな転機となったのが、ギリシャとの交流です。その関わりは、30年超にわたります。
ギリシャ神話や土地そのものを制作の核に据えて取り組む中で、私が強く感じてきたのは、文化とは決して固定されたものではなく、人と人が出会い、対話を重ねることで、少しずつ形を変えながら受け継がれていくものだということでした。
異なる文化に触れるたびに表現は深まり、自分の内にある世界も広がっていきました。ギリシャでの経験は、そうした大切なことを私に教えてくれました。
2023年にギリシャより名誉勲章金十字章を授与されたことは、これまでの活動を評価していただいた証であると同時に、これからも表現を通して文化をつないでいこうという、大きな励みとなっています。


ギリシャ・アポロ神殿の隣にあるギリシャ国家直営の文化施設 デルフィー・ヨーロッパ文化センター彫刻公園にアジア人として初の彫刻設置
子どもたちが持つ自由な感性は、未来を開く力
私はアーティストとして制作を続ける一方で、長年にわたり小中学生への絵画指導にも関わってきました。全ての子どもたちが評価や正解に縛られることなく、のびのびと自分の感性を表現できるよう、そっと寄り添う姿勢を心がけています。
「内から湧き出る思いを全身を使って体で表現していく、うまく描こうとしなくていい。感じたことを、そのまま表現してほしい。」
線が震えていても、形が整っていなくても、そこにはその瞬間にしか生まれない輝きがあります。絵を描くことは、上手になるためだけのものではありません。自分自身と向き合うための、ひとつの入口であり、アーティストである私との出会いが自己啓発、転機の切っ掛けになってくれればと思います。

福山市新市図書館20周年記念


国内外に残してきたモニュメントは、私にとって、その土地や人と向き合ってきた時間そのものです。一つひとつの作品が、地域から世界へとつながっていく。その瞬間に立ち会えることが、何よりの喜びです。
創作活動半世紀。けれど、まだ終わりではありません。
これからも、考え、つくり、出会いながら、表現を続けていきたいと思っています。
今後の活動
今年秋には昨年に続いてニューヨークでの個展が開催されます。個展はアーティストとしての現在進行形の生き様を世に問う正念場のステージです。
国際作家としての活動を国内、郷里に活用することで、夢と目標とを皆さんに提示できると考えています。
現段階では具体的なことは公開できませんが、広島、福山、ギリシャでの公共プロジェクトを準備中です。
昨年は神辺文化振興課企画で町おこしの講演、神辺市民交流センターでの個展。新市図書館、沼隈図書館では小泉八雲をテーマに講演、地元企業協力のもと、公開絵画授業を行いました。今年も秋に開催予定です。
※プロフィール
野田正明(のだ・まさあき)http://www.masaakinoda.com
1949年 広島県福山市新市町にて生誕
1972年 大阪芸術大学美術学科卒業
1977年 渡米、アート・スチューデンツ・リーグ(ニューヨーク)留学
1982年 アメリカ初の個展ACWLPギャラリー、キューギャラリー(ニューヨーク)ミリアム・バールマン・ギャラリー(シカゴ)開催
1984年~アメリカ各地、ヨーロッパ、アジア諸国で個展開催
1986年 大阪府立現代美術センターで個展開催、その後、東京、仙台、名古屋、大阪、岡山、広島、福山市等
1997年 「飛翔、去来流転、天空昇」ステンドグラス・京阪電鉄宇治駅に設置、京都府
2000年 「飛翔II―時空を超えて」福山市新市町・福戸橋北詰に彫刻モニュメント設置。
2002年 「飛翔Ⅲ―ドリーム・キャッチャー」ステンレス彫刻モニュメント、広島県立戸手高等学校設置
2003年 中国深圳(しんせん)美術館で個展開催、「飛翔Ⅳ天空昇」ステンレス彫刻モニュメント設置
2005年 「アポロの鏡」デルフィ・ヨーロッパ文化センター彫刻公園に彫刻モニュメント設置、ギリシャ
2006年 「野田正明展 ニューヨークからのメッセージ」ふくやま美術館開催
2009年 「ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の開かれた精神」彫刻モニュメントをギリシャ・アメリカン大学に設置、アテネ、ギリシャ
2010年 「ラフカディオ・ハーンの開かれた精神」(アテネとの姉妹版)松江市宍道湖畔に設置
2012年 「いまこそ未来」ステンレス彫刻モニュメントを福山駅南広場に設置
2014年 「ラフカディオ・ハーンの開かれた精神のオデュッセイア」八雲の生地 レフカダ・文化センターに設置、ギリシャ
2016年 「野田正明の世界・ニューヨークから世界へ」ふくやま美術館開催
2017年 春の叙勲「紺綬褒章」、「広島文化賞」、創立100年ニューヨーク・アメリカ版画作家協会でアジア人初の「栄誉賞」受賞
2018年 「螺旋の交合1995-2018」ギリシャ領事館個展、ニューヨーク
2019年 「無限の未来・小泉八雲終焉の地」彫刻モニュメントを新宿区立小泉八雲記念公園に設置
2009年からはじまった小泉八雲・縁の地巡る交流プロジェクトは10年の時を経て完結
2022年 「野田正明50年の軌跡―ニューヨークから世界へ―」岡山・高梁市成羽美術館開催
2023年 ギリシャ大統領より名誉勲章金十字章授与
2024年 「ニューヨークからのエアーメイル」福山市しんいち歴史民俗博物館
2025年 「過去が未来になる」JAAギャラリー個展、ニューヨーク