【ひろしまブンカノート #3】アーティスト・児玉香織さん
2024年グループ展「邂逅-巧術其之拾-」スパイラル(東京)での展示風景、作品は全て 《Lines, Blue painting》 のシリーズ
広島県各地の文化について、取材を通して記録していく「ひろしまブンカノート」。
第3回目は、アーティストの児玉香織さんをご紹介します。児玉さんは、料理の写真や食べ物をモチーフに、それらの形を緻密な線で描き写しています。今回は、方眼紙に黒い線で描かれた作品《方眼紙と線 / lines, graph paper》と、青に白い線で描かれたキャンバスの作品《Lines, Blue painting》の制作過程や児玉さんのモチーフとの向き合い方を伺いました。
(取材・文/藤田えりか)
方眼紙に描き始めたきっかけ
藤田:
先に発表された方眼紙の作品は、大学4年生の時から始められたそうですね。
児玉:
大学では別の作品を制作していて、方眼紙の作品は家で描いていました。大学で作品を見せると、どうしても先生から評価される対象になってしまう気がして、自分で場所を借りて個展を開き、その作品を展示しました。そうすると、見た人の反応が良かった。料理を見て描いたものと分かると思っていたのですが、「何を描いているか分からないのも面白い」という意見も発見でした。そのため、結局は方眼紙の作品を大学の卒業制作で出しました。

藤田:
白い紙に描かれなかった理由はありますか。
児玉:
白い紙だと、その画面に対してどう入れるかの美術的なルールに縛られそうで、でも、そういう作り方じゃないという気持ちから方眼紙にいきつきました。キャンバスの作品でも、キャンバスのどこに置いても、その線として成立することを目指しました。
藤田:
方眼紙も、ご自身で印刷して作られたものを使われているとお聞きしました。
児玉:
それは元々使っていた方眼紙が購入店から無くなってしまったのもあります(笑)が、社名が入っていない、且つ、使っていた方眼紙の色味に近いものが見つからず、自分で作りました。
方眼紙からキャンバスへ
藤田:
近年はキャンバスの作品を発表されていますね。方眼紙の作品は現在も制作されていますか。
児玉:
方眼紙にはしばらく描いていないですね。
藤田:
方眼紙の作品は2010年頃から、キャンバスの作品を2018年頃から発表されていますが、方眼紙からキャンバスへはどのように移行されたのでしょうか。
児玉:
早い段階からキャンバスは試していました。方眼紙の作品と同時並行で試行錯誤を繰り返していましたね。一度落ち着いて、キャンバスの作品を完成させたいという思いから、方眼紙の作品からキャンバスの作品に集中して取り組むようになりました。
藤田:
そして、現在の青と白の組み合わせが生まれたのですね。
児玉:
最初は、背景を黒で試したこともありました。ですが、黒だと線が沈む感じがあり、線が画面にくっついてないような感じにしたい、ふわふわ浮いているというか、画面にペタっとくっついた線にはしたくないという想いがありました。そこで、元々方眼紙に描いていたので、青い製図をイメージした青の下地を試すようになりました。完璧に平滑な青にしようとしていた時期もありましたが、それも違う気がして、少しムラが出るように下地の青を作っています。
描きだされる緻密な線
藤田:
作品の線はどのように描かれているのだろうと思っていました。非常に細かい線ですが、ペンだけではなく筆も使われているのですか。
児玉:
最初はまずペンで描きますが、その後の進め方はモチーフによって変わります。実物がモチーフの場合は2回目を筆で描きます。料理の写真をモチーフにしている場合は、2回目もペンで重ねていきます。

藤田:
ペンを使うか筆を使うかで、見え方はどのように変わりますか。
児玉:
ペンだけで仕上げるほうが、線がもうちょっと薄い感じになります。料理の写真をコラージュのように組み合わせて描く場合があるのですが、実物をモチーフにする時よりも線のかたちが複雑になるため、筆で重ねて線を濃くする必要がないかなという判断で描き方を変えています。
藤田:
画材は何を使われていますか。
児玉:
ペン、筆、インクの3種類です。方眼紙もキャンバスも、同じペンでインク(黒か白)を変えています。ペンで描く白は結構薄くて、線が弱いなと感じたので、もう少し濃い線を出したくて、筆で白を重ねるようになりました。ペンも筆も同じ製図用のインクを使っています。
藤田:
画材がとてもシンプルなのも良いですね。作品を仕上げるまでに、どのくらいの時間がかかりますか。
児玉:
方眼紙の作品は大きさによりますが、A5用紙ほどのサイズであれば2〜3日くらいです。キャンバスの作品は線を2回描かないといけないので、毎日できる時にコツコツと進めている感じです。

料理や食べ物をモチーフにしていること
藤田:
「料理や食べ物」をモチーフにされたきっかけはありましたか。
児玉:
描き始めの頃、お菓子の「柿ピー」を描いたことがありました。ガサっと集まった感じで、面白いなと思って、それを描いたりしていました。もっと良いモチーフが無いかと探している中で料理の写真を選ぶようになりました。
藤田:
児玉さんにとって、「料理」というモチーフの意味とは何でしょうか。
児玉:
なぜ料理なのかと聞かれると、未だに答えるのが難しいですね。人や動物を描くとなると、形よりも、その人の「存在」みたいな方を見してしまうからでしょうか。「なぜ料理なの?」と言われると、「面白いからです」と言いたくなります。
藤田:
作品からは児玉さんの感情が見えないような雰囲気がありますが、料理の写真に「美味しそうだな」という感覚はありますか
児玉:
それはありますね。1度、白黒の写真でも描けますかと言われたことがあり、でも、それでは描きたくないなと思いました。もしかするとカラーの料理写真であることは意味があるかもしれません。
料理の写真でも、「美味しそう」という感情は作品の先に伝える必要はあまりないかなと考えています。感情を入れようとすると、料理の形が見えなくなってしまう気がするので、だから形そのものを追いかけて描いていますね。
「正しい」を決めない関わり方
藤田:
10年以上、子どもを対象にした造形指導もされていましたよね。ご自身の制作活動と重なる部分はありましたか。
児玉:
方眼紙の作品を作った時、上手い・下手、正解・間違いの客観的な判断から外れようとしていたところがあった気がします。その気持ちに近い感覚なのか、「こっちが正しい」という言い方はしないようにしていました。例えば、絵の具を混ぜていくと様々な色ができるので、それで自由に描かせた造形では、人や動物を描く子もいれば、そうではない子もいました。「ぐちゃぐちゃ」と思われる絵でも、できたものは私にとっては形になっている感覚でしたね。子どもは大人が色々教える必要はありますが、「こっちが正しい」っていう言い方は、世界を狭くしてしまう感じもするので、私は「指導」というより、子どもたちが何かを作るための「お手伝い」や「見守る」感覚で接していました。
藤田:
私も造形体験となると、具体的な完成形を求めてしまうことがあります。でも、児玉さんは、そういう決まった考え方に抵抗しているような感じがありますね。
児玉:
具体的な完成形や決まった考え方が必要な場合もあると思います。私は1人の美術作家として子どもたちと向き合ってきた感じですが、子どもに対しても、いろいろな関わり方があるといいのかなという気持ちですかね。
児玉香織/KODAMA Kaori プロフィール
1986年広島県生まれ、県内在住。尾道市立大学芸術文化学部美術学科卒業。料理や食材などをモチーフに、方眼紙や青いキャンバスの上に緻密な線を描く作品を展開している。多くのアーティストを輩出した東京のギャラリー「ラディウム-レントゲンヴェルケ」で個展を開催し注目される。著名な現代美術のコレクターである高橋龍太郎の「高橋コレクション」に作品が収蔵。保育園や幼稚園での造形指導やワークショップの講師を務める活動も10年以上続けてきた。第6回(令和7年度)広島文化新人賞を受賞。
主な活動歴
【個展】
2020年「特別限定展示」横川創苑(広島)
2015年「方眼紙と線」アートギャラリーミヤウチ(広島)
2012年「方眼紙と線」ラディウム-レントゲンヴェルケ(東京)
【グループ展】
2026年「Femmes Fatales V」ガレリアポンテ(金沢)
2025年「玄趣25承」金澤水銀窟(金沢)
2024年「邂逅 ― 巧術其之拾 ―」スパイラル(東京)
2024年「Lingering Lights – Emerging Artists from Okayama and Onomichi」LE METTE GALLERY(広島)
2020年「青原恒沙子・児玉香織 Landscape×Lines」gallery G(広島)
取材・文 藤田えりか
広島県在住、広島市立大学芸術学研究科博士前期課程修了。2023年よりアートギャラリーミヤウチに学芸員として所属し、児童を対象にした企画展などを担当。最近はアーカイブとアーカイブされた情報の活用に関心を持ちながら活動中。