【ひろしまブンカノート#5】彫刻家・尾身大輔さん
「集落再生プロジェクト BH2」の土蔵ギャラリーにて撮影した尾身さんとギャラリーの展示作品 ※額装された作品を除く2点が尾身さんの作品
広島県各地の文化について、取材を通して記録していく「ひろしまブンカノート」。第5回目は、彫刻家の尾身大輔さんをご紹介します。尾身さんは、全長約3mのフナムシなど、巨大な木彫作品を数多く手がけている彫刻家です。2023年から三原市の小佐木島(こさぎじま)へ公益財団法人ポエック里海財団の職員として移住し、島での仕事と並行して創作活動を続けられています。今回は、小佐木島にある尾身さんのアトリエを訪ね、作品の制作背景や島での活動についてお話を伺いました。(取材・文/藤田えりか)
外周3.2kmの小さい島で
三原港からフェリーに揺られて14分ほどで到着する小佐木島(こさぎじま)。現在は住民が4人、約30分で島を一周できるほどの小さな島です。取材に訪れた日は天気にも恵まれ、海に反射する光の景色がとても綺麗で、釣りを楽しむ家族の姿も見られました。

尾身さんは、この島で活動する公益財団法人ポエック里海財団に所属し、島で暮らしながら日々の制作にも取り組まれています。島の港のすぐ近くに「集落再生プロジェクト BH2」という建物があり、そこで尾身さんの作品も鑑賞できます。

大きさが見え方を変える―実物よりも大きくつくること
藤田:
作品の大きさは普段どのように決められていますか。また、現在のように実物よりも巨大に制作されるようになったきっかけをお聞かせください。
尾身:
大きさの決め方は、制作を始める時に、そのままの大きさをイメージする時もありますし、持っている木材の大きさに合わせることもあって、けっこう色々ありますね。ただ、大きい方が、別のものに見えやすいと思っています。単純な虫ではない、化け物というか、異形のものとして見てもらえるのではないかと。
大きく作り始めたのは、カマキリの作品(2015年制作)の前の年に大きなカニを作った時からだったと思います。そのカニは、大きさを意識して作ろうと思ったわけではなくて、なんとなく大きく作ったものでした。その後のカマキリの作品では、展示候補の場所が空き家で、その部屋の中に巨大なものがいるっていうイメージで大きく作りました。

藤田:
木の種類や制作方法、尾身さんが制作過程で楽しいと思われる時をお聞きしたいです。
尾身:
木の種類は、加工がし易いこともあり、楠が多いです。作り方として、例えば、カマキリだと、胴体部分は1つになっていて、首や足は分けて作っています。ちなみに、胴体部分が重すぎると足で支えきれなくなってしまうので、胴体部分は1回半分に割って中身をくり抜いて、自立できるように軽くしています。
楽しい時としては、最初にチェーンソーで大きく形を切り出すときは、割と楽しいですかね。あとは細かい部分をノミで作っていくのは面白いなと思います。
藤田:
細かい部分を作りこむと作品の全貌が見えてきますよね。
作品のモチーフと展示場所の関係性
藤田:
制作するモチーフはどのように決められていますか。
尾身:
道端で虫を見かけるといった出会いや、展示をする場所が予め決まっている場合は、その場所を見て、思い浮かぶこともありますね。先ほど取り上げたカマキリの作品や、小豆島にあるヤドカリをモチーフにした作品などは、展示場所が先に決まっていたので、その場所を実際に見た時や写真で見返した時に作るモチーフを決めていきました。 持っている木材の質感に合わせて考える時もあります。虫を作っていこうと決めてはいないので、その時の自分の流行りというか、関心に合わせていますね。
小佐木島での暮らしと、制作活動へのつながり
藤田:
小佐木島での制作や活動に関心を持たれたきっかけは何でしたか。
尾身:
以前は、大学で非常勤助教をしていましたが、その任期が終わる年に小佐木島のことを知りました。島で家とアトリエを出してもらえるという話を聞いて、行ってみようと思ったのがきっかけでした。
藤田:
ちょうど良いタイミングだったのですね。実際に島で暮らし始めてからの印象はいかがですか。
尾身:
作りたいなと思うものが、すごく身近にいっぱいある環境だなと感じていますね。動物をはじめ、何かしらの生き物が周りにいるので。海も近いので、波関係の作品も何かしら作りたいなとかもあります。島に来てから制作した《オワタシフナムシ》を作り始めた時は、フナムシの上に人が乗って移動しているようなイメージでした。島に住むおじいちゃんやおばあちゃんが手押し車で移動している姿からイメージが湧いて。なので、触角がハンドルのような形になっています。

藤田:
制作期間はどれくらいでしょうか。また、実際の生き物を題材にする上で難しい所はありますか。
尾身:
制作期間は作品に寄りますが、《オワタシフナムシ》だと2ヶ月から3ヶ月くらいかかりました。制作で難しいのは、虫の関節部分とか、どういう理由でそうなっているのかわからない生き物の不思議なデコボコをつくるところですかね。でも、完璧にその形を作るのではなくて、自分の中にある虫のイメージも入れることで、模型にならないように気を付けています。
小学生とのワークショップ、これからの取り組み
藤田:
島に来られてから実施された小学生とのワークショップで、先ほどのフナムシの作品の引っ越しをしようという企画が楽しそうでした。ほかにも子どもたちの描いた絵をもとに制作された作品もありましたね。
尾身:
2024年の三原市芸術文化センター ポポロでの個展に合わせて、ポポロの方や関係者の方が企画を立ててくださいました。フナムシの作品のワークショップでは、島を周った後に、参加者さんとフナムシの作品を運べるサイズに解体してポポロの展示会場まで持って行きました。子どもたちの絵をもとに制作したのが、《コサギユウギダニ》という作品です。2023年12月に5人の子どもたちと島を巡り、現地で見つけた生き物から子どもたちが自由に描いてくれた空想の昆虫をモチーフに作りました。『コサギ』は小佐木島から、『ユウギ』は『遊戯』から名付けています。小学生のみなさんが描いてくれた色使いをそのままに、蝶とダニを組み合わせた形になっています。

藤田:
色使いに子どもらしい明るさを感じる作品ですね。モチーフの組み合わせも面白いですね。最後に、今後の予定や現在進められている作品がありましたら教えてください。
尾身:
今は、千葉県の房総半島の国際芸術祭に参加することになって進めている作品があります。川が氾濫するのを防ぐような水をためる池が展示場所で、その展示場所は大多喜城という城の近くでした。そこで、城からシャチホコを連想し、魚のようにシャチホコが泳いでいる姿をモチーフに制作中です。
*上記の作品は「房総国際芸術祭 アート×ミックス2027」(2027/3/6〜2027/5/30 )で公開される予定です
尾身大輔/OMI Daisuke プロフィール
1992年香川県生まれ。2016年広島市立大学大学院芸術学研究科修了。2023年より公益財団法人ポエック里海財団文化芸術担当及び里海環境保護担当として三原市小佐木島に移住し、同財団の活動と並行して創作活動を続けている。神話・宗教・民俗伝承から見た人と自然との関わりをテーマに、近年は昆虫や甲殻類などの生き物を題材にした巨大な木彫作品を手掛けている。
主な活動歴
2025年「瀬戸内国際芸術祭 2025」(香川)
2024年「『積層 30』-広島市立大学の教員・卒業生作品を泉美術館のコレクションとともにー」(広島)
2022年「瀬戸内国際芸術祭2022」(香川)
2021年「三都半島アートプロジェクト2021」(香川)
取材・文 藤田えりか
広島県在住、広島市立大学芸術学研究科博士前期課程修了。2023年よりアートギャラリーミヤウチに学芸員として所属し、児童を対象にした企画展などを担当。最近はアーカイブとアーカイブされた情報の活用に関心を持ちながら活動中。